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サービスによって異なる“物理サーバ”の提供形態
IaaSとして提供される仮想サーバには、同じ物理サーバを共有するほかのユーザの影響を受ける可能性があるほか、仮想化処理のオーバーヘッドによる性能低下などの問題があり、特にパフォーマンスを求めるシーンでは気になるところです。また企業によっては、セキュリティポリシーやコンプライアンス上の理由から、ほかのユーザと物理サーバを共有することが許されていない場合もあるでしょう。こうした問題に対処するため、いくつかのクラウドプロバイダでは、物理サーバを提供するサービスを用意しています。
ただ、物理サーバをクラウドサービスとして提供するといっても、その意味するところはさまざまで、注意しなければ期待した効果を得られなかったということにもなりかねません。それでは、具体的にどのようなサービスがあるのでしょうか。
クラウドサービスにおける物理サーバの提供形態は、大きく2つに分けることができます。1つ目はオンプレミスで導入したときと同様に物理サーバを直接ユーザが使えるサービスであり、リンクの「ベアメタルクラウド」やIBMの「IBM Bluemix Bare Metal Servers」、Oracleの「Bare Metal Cloud Services」などが挙げられます。
2つ目は物理サーバとして提供されるものの、直接物理サーバを操作するのではなく、その上で仮想サーバを実行して利用するというサービスです。具体的には、Amazon Web Servicesが「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」で提供する「Dedicated Instance」や「Dedicated Host」、さくらインターネットが「さくらのクラウド」で提供している「専有ホスト」などがあります。
物理サーバとして使えないサービスのメリット
メリットが分かりづらいのは、2つ目の物理サーバを直接使うことができないタイプのサービスでしょう。確かに、ユーザが実際に使うのは仮想サーバであるため、仮想化処理のオーバーヘッドが解消されることはありません。しかし物理サーバを独占的に利用できることから、ほかのユーザの仮想マシンの影響を受けることがないのは利点です。また、物理サーバを共有することが許されていないケースで利用できることも、仮想サーバを提供する一般的なクラウドサービスとの違いでしょう。
ライセンス面でのメリットもあります。一部のソフトウェアでは、ライセンス費用がCPUソケットやCPUのコアの数によって決定されます。物理サーバでの運用であれば、こうしたライセンス体系でも問題はありませんが、クラウド上で提供される仮想サーバで利用する場合、そもそも物理CPUやコアの数を把握できないため、ライセンス利用料が算定できず、実質的に利用できないということになってしまいます。
多くのソフトウェアでは、こうした現状を鑑みてクラウド向けのライセンスを提供していますが、それでもオンプレミスで利用していた既存のライセンスをクラウドに持ち込みたいといったケースでは問題が生じます。そこでAWSのDedicated Hostなど物理サーバを提供する一部のサービスでは、CPUソケットや物理コア数を把握できるようにしており、ライセンスの持ち込みを可能にしています。
Amazon EC2編
物理サーバを直接利用できないAmazon EC2
Amazon Web ServiecsのIaaSである「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)では、物理サーバを専有して使うことができるサービスとして「Amazon EC2 Dedicated Hosts」が提供されています。前回解説したように、Amazon EC2 Dedicated Hostsは割り当てられた物理サーバ上で仮想サーバを実行して利用するサービスであり、物理サーバそのものを直接利用することはできません。
このため、物理サーバが持つパフォーマンスを最大限に活かすといった用途で利用するのではなく、セキュリティポリシーなどの理由からほかのユーザと物理サーバを共用できない、あるいはソフトウェアライセンスのためにCPUコアを把握する必要があるといった用途で使うためのサービスだと言えます。
それでは、具体的なサービス内容を見ていきましょう。Amazon EC2 Dedicated Hostsでは、まず物理サーバである専有ホスト上で利用する仮想サーバのスペック(インスタンスタイプ)を選択します。インスタンスタイプには、「一般的な目的-現行世代」の「m4」と「m3」、「コンピューティング最適化-現行世代」の「c4」と「c3」、「GPUインスタンス-現行世代」の「p2」と「g2」などがあります。
専有ホスト上でインスタンスを実行する
専有ホストの作成は簡単で、インスタンスタイプとアベイラビリティゾーン(発生した障害の影響を避けるために設けられたエリア)、インスタンスの自動配置の有無、作成する専有ホストの数などを指定します。
割り当てられた専有ホストには、メニューの「専有ホスト」からアクセスできます。ここでいずれかの専有ホストを選択し、「アクション」から「ホストにインスタンスを作成」を選び、専有ホスト上で実行する仮想サーバ(インスタンス)を作成するという流れです。
仮想サーバの作成は、基本的に通常のAmazon EC2の手順と変わりませんが、インスタンスの詳細の「テナンシー」の欄が「専有ホスト」となっており、作成した専有ホスト上で実行されることが分かります。
今回インスタンスタイプとして「c4.xlarge」を選択したところ、物理コア数は「20」、ソケット数は「2」、合計vCPUは「32」とコンソール上に表示されていました。これで8台の仮想サーバを実行することが可能です。
専有ホストで利用されているCPUは最適化されているというIntel Xeon E5-2663 v3で、ストレージはAmazon Elastic Block Storage(EBS)となります。価格を見ると、c4の場合で1時間あたり2.218ドル、1ドル110円で換算すると1カ月で約17万5665円となります。また、それ以外の代表的なインスタンスタイプの場合は以下の表のようになります。
続いて、さくらのクラウドで提供される物理サーバをみて見ましょう。
さくらのクラウド編
提供される物理サーバは1種類
レンタルサーバやVPS、専用サーバなど、さまざまなサービスを提供しているさくらインターネットにおいて、IaaSとしてラインナップされているのが「さくらのクラウド」です。このさくらのクラウドでは物理サーバも「専有ホスト」として用意されており、CPUやメモリを専有し、ほかのユーザの影響を受けることなく利用できるほか、物理サーバでの利用を前提としたライセンスのソフトウェアの利用も可能です。
ただ、前回紹介したAmazon EC2のDedicated Instanceと同様、物理サーバに直接OSをインストールして利用することは不可能で、あくまでも仮想サーバを実行するためのリソースとして利用することになります。
提供される物理サーバのスペックは、物理CPU数が2、物理コア数は20、そして224GBのメモリを持つサーバで、ほかのスペックを選択することはできません。仮想サーバに割り当てるストレージはほかのユーザとの共用で、種類(SSD/HDD)と容量を組み合わせたいずれかのプランを選択します。
なお、さくらのクラウドには東京リージョンと石狩リージョンがあり、いずれかを選択してサービスを利用することが可能ですが、専有ホストが提供されているのは東京リージョンのみとなります。さらに専有ホストには、Windows Serverをインストールした仮想サーバを実行できないという制約事項もある点に注意が必要でしょう。
専有ホストの利用料は時割と日割、月額の3パターンがあり、それぞれ1,080円、10,800円、216,000円となります。なお、さくらインターネットでは「さくらのVPS」および「さくらの専用サーバ」のそれぞれでも物理サーバを提供していますが、いずれも初期費用が必要です。一方、さくらのクラウドの専有ホストは初期費用が無料であり、同社のそのほかのサービスとの大きな違いとなっています。
ほかのユーザと共有するストレージが評価の分かれ目
専有ホストの作成は、コントロールパネルから行うことができます。Amazon EC2のDedicated Hostsなどと異なり、物理サーバのスペックは1種類しかないため、専有ホストの作成で特に戸惑うことはありません。
コントロールパネル上で専有ホストを作成すると、数分で利用可能な状態になります。その後、同様にコントロールパネルを使って仮想サーバを作成し、それを専有ホストに割り当てます。さくらのクラウドのコントロールパネルは使いやすく、初めて利用するというユーザでもスムーズに作業を進められるでしょう。
またCentOSやUbuntu、DebianなどといったLinuxディストリビューションがすぐに使える状態で用意されているほか、ApacheやMySQL、PHPをインストールして「LAMP」構成にしたり、WordPressやRedMineといったソフトウェアを導入したりできるスクリプト(スタートアップスクリプト)が提供されているのも便利です。
ただ物理サーバという観点で見た場合、Amazon EC2のDedicated Hostsと同様に直接OSをインストールして利用できないという制約があり、仮想化のボトルネックを回避して物理サーバのパフォーマンスをフルに利用するといった用途には対応できません。運用するシステムによっては、専有ホスト上で実行する仮想サーバでWindows Serverを実行できないことも大きな制約になります。
パフォーマンスの観点で意識しておきたいのは、専有ホストを利用しても、その上で動作する仮想サーバのストレージは共有リソースから割り当てられる点です。特にストレージI/Oのパフォーマンスが求められるシステムにおいては、この点を事前に確認しておきましょう。
IDCFクラウド編
GPU搭載物理サーバも提供
IDCフロンティアが提供しているクラウドサービス「IDCF Cloud」では、物理サーバを提供する「ハードウェア専有マシン」というメニューを用意しています。スペックは4種類で、「HighIO」と呼ばれるタイプでは、1CPUソケットの「3XL128」と2CPUソケットの「5XL128」の2種類があり、いずれもメモリ容量は128GBです。ディスクは3XL128が2100GBのSSD、5XL128は900GBのPCIe接続のSSDとなっています。
またGPUを搭載した「GPU BOOST」タイプには、いずれも2ソケットで56仮想CPU、256GBのメモリを搭載する「GPU.7XLM40」と「GPU.7XLP100」の2種類があります。違いは搭載されているGPUで、GPU.7XLM40はnVIDIA製「Tesla M40」、GPU.7XLP100は同じnVIDIA製の「Tesla P100」を搭載しています。
料金は下表のとおりです。当然初期費用はないために気軽に使い始められるほか、月額上限料金も定められているため、長期利用でも安心できるでしょう。ただしネットワーク利用料金は従量制で、インターネット接続および異なるリージョン/ゾーン間の通信は3,240GB/月まで無料ですが、それを超えると10円/GBの料金が発生します。なお100Mbpsの帯域保証がある定額オプション(30,000円/月)も用意されています。
ハードウェア専有マシンを作成するには、コントロールパネルからリージョンを選択し、仮想マシン作成画面に移動してタイプとしてハードウェア専有マシンのいずれかを指定するという流れになります。
なお今回の検証では、東日本リージョン1ではHigh IOの5XL128のみ、東日本リージョン2ではHigh IOの3XL129しかハードウェア専有マシンを選択することができませんでした。用途に合わせてハードウェア専有マシンを選択し、それらを同一リージョンで運用したいといった場面では、事前に確認する必要があるでしょう。
物理サーバに直接OSをインストール
ハードウェア専有マシンを選択した後、インストールするOSを選択します。OSはテンプレートとして用意されており、CentOSやUbuntu、Debian、Red Hat Enterprise Linux、Windows Serverが選べます。また、OSごとに複数のバージョンがあり、たとえばCentOSであれば6.7/6.8/7.2/7.3のいずれかが選択できました。
仮想サーバの場合、インストールするOSのイメージとして、事前に用意されたテンプレートのほか、ISOファイルを利用することが可能になっています。ただHigh IOタイプのハードウェア専有マシンでは、ISOファイルを指定することができず、テンプレートとして用意されたOSのいずれかから選択することしかできません。
コントロールパネル上では、物理サーバにハイパーバイザをインストールし、プライベートクラウド的にハードウェア専有マシンを利用するためのメニューは見当たりませんでした。もちろん、インストールされるのは通常のLinuxやWindows Serverであるため、その上で仮想サーバを立ち上げて実行するといったことも可能ですが、そのための作業はユーザー自身で行う必要があります。
このようにパブリッククラウド的に使いたいといったケースでは一手間必要ですが、物理サーバ上に直接OSをインストールして利用できるのは大きな利点でしょう。また、ストレージもハードウェアに接続されたSSDを利用できるため、データベースなどストレージI/Oが要求される用途でも使えるのではないでしょうか。
ニフティクラウド編
ストレージにioDrive2を採用するニフティクラウドの「専有サーバー」
VMwareを仮想化基盤に用いた純国産クラウドサービスとして、富士通クラウドテクノロジーズで提供しているのが「ニフティクラウド」です。従来、このサービスはニフティから提供されていましたが、2017年4月1日に同社のエンタープライズ事業が分離して富士通クラウドテクノロジーズとなり、ニフティクラウドもそちらに引き継がれています。
ニフティクラウドは東日本と西日本、アメリカの3つのリージョンで提供されているIaaSを中心としたサービスです。提供されるサーバリソースには「Type-e(高コストパフォーマンスモデル)」、「Type-h(高スペックモデル)」の2つのカテゴリがあり、仮想CPU数やメモリ容量の異なるさまざまなモデルが提供されています。
物理サーバが持つリソースをすべて専有できる「専有サーバー」サービスもあり、料金は初期費用が100,000円、月額料金が187,500円となります。
サーバのスペックは、CPUが16コアのXeon E5-2690が2ソケットで、計32コアを利用可能です。メモリは128GB、ローカルストレージには365GBの容量を持つFusion-ioのioDrive2が使われています。プレインストールOSとして用意されているのは以下のOSです。なおWindows Serverの場合、マイクロソフトのデータベースであるSQL Serverのライセンス付きのプランも選択することが可能となっています。
インターネットとの直接の通信は不可
月額料金だけを見ると、ベアメタルサーバを提供するそのほかのクラウドサービスと比較して、それほど高価という印象はありません。ただ100,000円の初期費用が発生するため、短時間だけ利用する場合には割高になってしまいます。このため、短時間だけ物理サーバを利用してテストや検証を行いたい場合など使いづらいケースもあるかもしれません。
また物理サーバがそのまま提供されるわけではなく、VMware ESXiが仮想化基盤として利用されている点にも注意が必要でしょう。その基盤の上で実行される仮想サーバは1つだけであり、物理サーバが持つリソースをすべて専有して利用することになるため、そのほかの仮想サーバの影響を受けることはありませんが、仮想化のオーバーヘッドはあると考えられます。特にパフォーマンスを重視する場合には、気になる点でしょう。
ネットワーク面で注意したいのは、直接インターネットに接続することはできないという点です。このため、インターネット上で何らかのサービスを提供するために専有サーバーを使いたいといった場合には、フロントにインターネットと直接通信することが可能な仮想サーバを立て、そのサーバを経由して専有サーバーに接続する構成を採ることになります。この点はシステム全体の構成を大きく左右することになるため、事前にしっかり検討する必要があるでしょう。
なお、ベアメタルクラウドと他社クラウドサービスについて機能的な側面から5つのポイントに絞って比較しています。サービスだけではなく、機能的な側面での比較を見てみたい方はこちらもどうぞ → ベアメタルクラウドと他社クラウドサービスを比較
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