新型コロナウイルスの感染拡大により、今後「通勤」を伴うこれまでの働き方は、テレワークに代替されていくことが予想されます。このような中、エンジニアは比較的テレワークを導入しやすい職種とされていますが、一方でテレワーク特有の問題点もあるため、「どうすれば快適に、かつ効率よく働けるか」という視点から制度を構築する必要があります。ここでは、テレワークに従事するエンジニアの声をもとに、メリットやデメリット、問題点などを紹介しています。
目次
急拡大するテレワーク
2020年に入り、日本国内ではテレワークが急激に普及し始めています。その背景には、新型コロナウィルスの感染拡大防止やBCP対策のほか、若手社会人の意識変化などがあるようです。
緊急事態宣言後は1か月で約2倍
パーソル総合研究所の調査(※)によれば、2020年4月7日に発令された7都道府県への緊急事態宣言後、テレワーク実施率が一気に約2倍に上昇したとのことです。具体的には、緊急事態宣言発令の1か月前は13.2%であったのに対し、発令後は27.9%に増加しています。
※参考:パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
テレワーク継続希望者の急増
テレワークを経験した社会人のうち、「新型コロナウィルス終息後も続けたい」「やや続けたい」と回答した社会人の合計は、全体の53%強に達しています。また、20代と30代に限定すると60%以上がテレワークの継続を希望しており、若年層を中心にテレワークへの需要が高まっていることがわかります。
技術職(エンジニア含む)のテレワーク実施割合が高い
技術職のテレワークの実施割合は、Branding Engineerの調査(※)によると6割以上で導入が進んでいるという結果が出ており、技術職においてもテレワークが浸透してきていることが分かります。また、リモートワークの満足度については、「及第点だが、使っていけると感じた」「まあまあ満足している」「すごく満足している」と回答した人の割合が合計74.8%あり、多くの企業で実務を遂行できる水準に至っていると言えるでしょう。
※参考:CodeZine「ITエンジニアのリモートワークに関する「働き方」実態調査実施」
テレワークのメリットとデメリット
前述した情報を総合すると、今後は30代以下のエンジニアを中心にテレワークへの理解が進み、主要な働き方のひとつになる可能性が高いと言えるのではないでしょうか。しかし、テレワークは新しい働き方だけに、そのメリットやデメリットが十分に認知されていない状態です。そこで、複数の調査結果から労働者視点でのメリット・デメリットを整理していきます。
テレワークのメリット
- 通勤に要する時間やコストが削減できる
- ライフワークバランスが両立しやすい
- 集中しやすい時間に労働できるため成果物の質が向上する
- 担当範囲外の頼まれごとや相談・打ち合わせが減り、コア業務に集中できる
- ICT活用が前提となった結果、紙ベースの非効率な作業が廃止され、作業効率が上がる
テレワークは、「通勤時間」や「雑務」が否応なしに削減されることで、時間的な余裕が生じます。特に、リサーチや思考の時間が長いエンジニアの場合は、時間的な余裕が集中力や創造性を高め、アウトプットの質を向上させる効果が期待できるでしょう。開発作業に従事することが多い20代から30代のエンジニアであれば、テレワークは転職や部署異動にも匹敵するような環境変化だと感じる可能性があります。
テレワークのデメリット
- 仕事とプライベートの時間の区別が難しい
- 業務上必要なコミュニケーションの精度が落ちる
- 顧客感情を読み取りにくく、仕様策定に必要な要件のヒアリングに時間がかかる
- 生活リズムが崩れたり、休憩のタイミングが不規則になったりすることから、結果的に長時間労働に陥りがちである
- 情報漏洩などセキュリティリスクに対応するための手間が増える
- 什器・通信回線・電源など、オフィスよりも環境が貧弱で仕事がしにくい
- 勤務評価が適正に行われていないことへの不満が生じる
- 部署間の連携や、情報共有のハードルが著しく上がった
一方、デメリットは「コミュニケーション」や「インフラ」に関するものが大半を占めます。具体的には、Web会議システムが未導入であったり、クラウド+VPNベースの作業基盤が整っていなかったりといった事例が挙げられます。全社的にテレワークを前提とした制度設計・システム構築ができていれば、テレワークであっても出社時と大差のない職場環境を構築することは十分に可能です。
実際にIT業界の運用・保守フェーズでは、サテライトオフィスから顧客先のシステムを監視・運用したり、リモートログインによって障害箇所の特定・改善を行ったりと、テレワークに類似した環境で仕事が進められてきました。また、近年はAWSやGCPなどクラウドベースの開発環境が普及したことにより、比較的規模の大きな開発プロジェクトであっても、リモートで完遂可能なケースが増えています。
部署間連携や人事評価においても、同様のことが言えます。システム上から作業の進捗状況を確認・共有できる仕組みができていれば、「進捗状況」「アウトプットの質」「作業スピード」などから勤務態度を評価することは十分に可能です。足りない部分は定期的なオンライン面談・打ち合わせで補えば、出社時と何ら変わらない運用が可能になるでしょう。
テレワークの導入・運用を成功に導くポイント
テレワークが急拡大している一方で、2020年時点で日本企業の大半は、テレワークを前提とした業務設計を行っていないのが実情です。つまり、テレワークは「イレギュラー」な事態であり、通常の業務プロセスとは符号しにくいのです。したがって、エンジニア側から企業に対して働きかけを行い、システム・制度の充実を促していく必要があります。
エンジニアが企業側へ求めるべきこと
Todoリストの設定と共有
「いつまでに」「どのタスクを」「何%まで進捗させるべきか」などを具体的に記したTodoリストを設定・共有できる仕組みの導入を求めましょう。既存のプロジェクト管理ツールでも同様の機能があれば、その運用体制(記入ルール・情報共有設定など)を再定義し、より具体性を高めることが大切です。
コミュニケーションツールの充実
Web会議システムはもちろん、社員同士のリアルタイムチャット・ビデオ通話機能や、コラボレーション機能をもったツールの導入が望ましいでしょう。ただし、ツールを選定する際は機能要件だけでなく、自社のセキュリティポリシーを満たすツールを導入することが大切です。セキュリティポリシーがない場合は、大手企業への導入実績が豊富な製品を選ぶとセキュリティ面でも安心です。
評価制度の見直し
制度面では、まず「労働時間ベース」ではなく「成果ベース」への移行が必要になるでしょう。そのためには、「進捗率」の定義が大切です。進捗率はさまざまな定義が可能ですが、主に以下の基準が一般的です。
- 「完成数基準」(予定した機能のうち完成したものの割合を算出する)
- 「予定工数基準」(予定した工数のうち、完了した作業の工数の割合を算出する)
- 「実績工数基準」(予定工数のうち、消費済みの工数の割合を算出する)
テレワークは進捗状況のリアルタイム性が重視されるため、2の「予定工数基準」が適しています。このように実際の業務に即した基準を提案し、それを成果と認識してもらうことで、人事評価の適正化につながるでしょう。
プロジェクト管理ツールの導入
こうした機能・制度を複数の場所から多人数が使うためには、プロジェクト管理ツールが必須です。昨今のプロジェクト管理ツールには、工数管理機能やタスク管理機能などが備わっており、予定工数に対する実績やスケジュールに対する進捗を社員別に可視化できます。近年はクラウド型のプロジェクト管理ツールが主流のため、スピーディ・低コストで導入することができるでしょう。
まとめ
この記事では、テレワークの現状とメリット・デメリット、テレワーク導入のためのポイントなどについて解説してきました。テレワークという制度自体は、エンジニアにとってプラスに働く要素が多いでしょう。テレワークの導入・運用にあたっては、個人として生活リズムの維持に努めるとともに、所属企業に対しても業務を円滑にするためのツールの導入や、テレワークのデメリットをカバーするようなルール作りを促していくと良いでしょう。
参考:
東京都産業労働局
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/30_telework_tyousa.pdf
パーソル総合研究所
https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html
https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html#a10
CodeZineニュース
https://codezine.jp/article/detail/12234
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework.html
https://codezine.jp/article/detail/12234